グループホームケア

 当院で実践している5つの基本的ケアーで、認知症老人はかなり良くなります。ただこの認知症が良くなるとは、記銘力とか、理解力が昔のように良くなるということではありません。問題病状の減少ということが特徴になります。認知症老人達は、自分達が害もなく周囲から受け入れられていることを知り、安心していくなかで、認知症がよくなっていくのだと思われます。
認知症が良くなるとは
 問題症状のおこる頻度が減り、勢いが弱くなることで、穏やかになっておつき合いがしやすくなり、ケアーがしやすくなって、今まで認知症のためにできなかったことがいくつかできるようになる。同時に人間らしさを取り戻す。
 このような成果を得るためには、私たちは、5つの基本的ケアーだけでは十分ではない、もっと専門的な認知症の為の特別プログラムが必要であると考えはじめました。それが1997年から始めた院内グループホームです。

上川病院グループホームケアの概要
開  始  1997年5月11日
参加人数  10名×2グループ
スタッフ数 3名×2グループ(看護師、ケアーワーカーなど)
場  所  病棟とは別棟。リビング、台所など家庭的なスペースを設定
活動時間  9:30~16:30(週5日)
主な活動  モーニングコーヒー、日付確認、新聞朗読、
      皆で盛り付けをしての昼食、散歩や手芸、おやつ作り、
      3時のおやつ、ラジオ体操、清掃など(各活動には移動が伴う)

認知症がかなり進行していても、昔から何十年間、何万回と行った行為や動作は結構できるものです。例えば家事、茶わんを洗う、床を掃く、テーブルを拭く、ご飯をよそう、お茶をいれるなど。こういう行為は認知症の方でも少し手伝ったり、見守ったりすればできることが多いのです。グループホームケアーとは、かつて自分の家で行われていたこれら日常的な動作や行為を、ごく自然に行ってもらうプログラムです。患者さんのグループも10人程度の少人数、そして病棟とは別のリビングとダイニングを合わせた空間が用意されています。

部屋の見取り図

自身と人間らしさを取り戻す

 認知症であっても、患者さんのできることが多くなり、失われていた自信を取り戻す、そのうち集団の中で自分の役割が出てきます。すると自分は生きていても良いのだという実感が沸き、余裕が出てくる。他人に優しくできるようにもなる。そこには本当の思いやりと、他人と付き合うルールとしての礼儀の双方がありますが、いずれにせよ、しぐさや態度に優しさを表すことができれば、集団生活は一層しやすくなってきます。目の輝きが増してきて、皆、生き生きとし、食事の量も増えてきます。お洒落ににもなってきます。これは人間らしさを取り戻してきたと言えると思います。

 さて、では認知症が治ったのかというとそうではありません。認知症が「良く」なってきたのです。認知症が良くなるというのは、問題症状の回数が減り、その勢いが減って穏やかになり、皆と付き合いしやすくなる、ケアしやすくなって、今まで認知症のためにできなかったことがいくつかできるようになる。そして、結果として人間らしさを取り戻していったということだと思います。
 このグループホームケアーは、認知症性老人の入院入所時のきめ細かなケアーのための試みでもあり、特に認知症の進行防止のための治療的な意義が強くあります。私たちはこういったリハビリスタッフやケアースタッフが協同して行う認知症ケアーこそ「認知症のリハビリテーション」の名にふさわしいものだと考えています。